安倍晋三首相は4月7日夕、7都府県(東京、神奈川、埼玉、千葉、大阪、兵庫、福岡)を対象に、新型コロナウイルスの感染拡大に備える改正特別措置法(新型コロナ特措法)に基づく「緊急事態宣言」を発令した。

これを受けて、東京都の小池百合子知事は4月10日の記者会見で、緊急事態措置として休業要請する施設の詳細を発表。居酒屋を含む飲食店には生活インフラとして休業を求めなかった一方、デリバリーやテイクアウトサービス以外は営業時間を午前5時~午後8時、酒類の提供は午後7時までと時間短縮を要請した。

飲食店によっては、全面休業を要請されなかったことで胸をなでおろす店もあった。夜間の飲み会での売上が中心だった店にとっては酒類の提供が午後7時までという時間制限が大きな障害となった。

売上は目に見えて低下していく。感染リスクを避けるよう呼びかける声は日増しに大きくなる。感染拡大が報じられ、終息の見通しは遠のき続ける。

休業も時間短縮も法的拘束力はない。店の経営のため営業を続けるか、否か。

多くの飲食店が判断を迫られた。

営業を休業する店、営業時間を短縮する店、これまで通りの営業を継続する店、そして閉店を決意する店…それぞれの店主に話を聞いた。

休業の居酒屋「1カ月後に再開するのは厳しい」

緊急事態宣言から10日 営業自粛か継続か…飲食店の判断を追う
東京メトロ神楽坂駅の近くで20年以上営業を続ける居酒屋では、緊急事態宣言と休業要請を受けて11日から休業を決定。

オーナーの男性は「少し前まではまだまだ客も入っていたが、4月に入って急に閑古鳥が鳴くようになった。家賃や仕入れた食材、従業員の給料など悩んだ」とした上で「広い店ではない。万が一店で感染者を出すことだけは避けようと考えた」と説明する。

男性は、営業時間の短縮ではなく店自体の休業を決めた。

休業要請では、飲食店は生活インフラとして全面休業の要請にはならなかった。一方で、営業している飲食店への風当たりは強くなってきていると感じる。また、店は飲み会での利用がほとんどで、酒類が午後7時までなら「営業できないのと同じ」だという。

休業期間は約1カ月程度としたが、「営業再開のタイミングは情勢を見て考える。正直1カ月では厳しい気はしているが、あまり長引くと店の存続に関わる」という。

「東日本大震災の時も営業を休止した。あれ以上のものは来ないと思っていたが、震災以上の影響が出ている。何があるかわからないもんだ」と顔をしかめた。

営業時間短縮の牛丼チェーン店「開いてますか?に応えられない」

緊急事態宣言から10日 営業自粛か継続か…飲食店の判断を追う
豊島区の大手牛丼チェーン店では午後8時以降は持ち帰りのみ対応している。

男性店長は「本部の指示に従っている」と説明。

しかし、普段は大勢の人で賑わう周辺の飲食店もほとんどが休業し、食事する場所を求めて”飲食店難民”になっている人々の姿も見かけるという。

店長は「開いてますか?と尋ねてきた人たちがガッカリして帰っていく姿を見るたび、申し訳ない気持ちになる」と肩を落とした。

「不要不急の外出は避けるべきだが、用事があって出てきている人もいる。持ち帰りでは食べる場所がないが、お腹をすかせている人たちに食事を提供できないのは複雑」と本音を語る。

営業継続の焼肉店「従業員の生活を守りたい」

緊急事態宣言から10日 営業自粛か継続か…飲食店の判断を追う
新宿区の焼肉店は時間を短縮せず営業を継続。休業要請に強制力はないため、必ずしも従う必要はない。

自粛の要請に応じれば都は「感染拡大防止協力金」を支払うとしている。

しかし、オーナーの男性は「アルバイトに留学生が数多くいる。彼らにとっては大切な生活費なので、途切れさせるわけにはいかない」と話す。

現在発表されている「感染拡大防止協力金」は単独店舗の事業者の場合は50万円、複数店舗を持つ場合は100万円。営業した場合、外出自粛の影響を差し引いても「売り上げの方が多くなるはず」と判断した。

しかし、営業継続には困難も伴う。

営業を続けていると、ネット上で店について「感染を広める国賊と書かれた」と話す。

TwitterなどSNSでの営業情報の告知はやめたが、過激なアカウントからリプライで非難されることもあるという。

「店を開けているだけで後ろめたさもある」と胸中を明かす。

閉店するバー「撤退は負けでも逃げでもない」

緊急事態宣言から10日 営業自粛か継続か…飲食店の判断を追う
渋谷区のバーは閉店を決め、4月上旬に物件の解約通知を出した。

店長の男性は「固定費は少ない方だが、個人で細々とやっていた店にとって自粛がいつまで続くかわからない状態は厳しい」と話す。

元々の利益も大きくはない。酒や料理を勉強する時間がほしいとも考えていた。少しでも支出を減らすため、早々の撤退に踏み切った。

現在は休業中で、解約のため本来はあと半年分必要な家賃の減額を貸主と交渉中だ。

一方で、再起を諦めたわけではない。

「撤退は負けでも逃げでもない。コロナに対抗する戦略だと考えている」