株式会社アクトプロは2020年3月13日、店舗から退去したい事業者と、新たに出店したい事業者をつなぐプラットフォームサービス「退去NAVI」を一般公開した。

毎年多くの飲食店が閉店していく昨今、退去する店舗を「居抜き」で新出店者に引き継ぐことで、退去の際の大きな負担となる原状回復費用や解約ペナルティを解消。出退店をサポートするだけでなく、内装工事などの削減で限りある資源の保護を目指す。

構想から丸2年。入念な準備を重ねてきたサービスだが、今回予定を前倒しして公開に踏み切ったきっかけは新型コロナウイルスの感染拡大だ。

感染リスク回避のため外食が敬遠され、年々増加していた訪日外国人(インバウンド)観光客は大幅に減少。コロナウイルス流行の長期化が見込まれ、多くの飲食店が窮地に立たされる中、アクトプロの新谷学・代表取締役社長は「困っている飲食店経営者に居抜きでの費用を抑えた退去という選択肢を提示したい」と退去NAVIにかける思いを語る。

「高額な退去費用を払えずに八方塞がりになった店舗が次に進むきっかけとなるようなサービスにしていきたい」

退去希望者、入居希望者、貸主全員にメリット

居抜き退去で費用を抑えた撤退が可能に 新型コロナで窮地の店舗に寄与 退去NAVI公開、アクトプロ・新谷学代表に思いを聞く

退去NAVIは、退去希望者が登録したテナントを、入居希望者とマッチングするサービス。

店舗を退去するには多くの場合、数カ月前の解約通知や、店舗内の床・壁・天井・内装などを撤去し「スケルトン」状態に戻す原状回復が必要となる。半年分の家賃や、スケルトンに戻すためには小規模店舗でも数百万の金額がかかるため、業績不振で退店を決意した事業者にとっては大きな支出となる。

新谷は「退去NAVIを利用することで居抜きで入りたい事業者に店舗をそのまま引き継ぐことが可能なため、退去希望者にとって資金面で大きなメリットがある」と強調する。契約成立時には、情報料として賃料1カ月分をキャッシュバックされるため、次の事業に向けての資金を確保することも可能だ。

入居希望の企業は解約通知前の物件情報を得られるだけでなく、居抜きによる出店のため内装工事などの初期投資を抑えられ、貸主にとっても途切れることなく家賃収入を得られる上に新規募集の広告費を削減できる。

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居抜き物件は資源を守ることにつながる

退去する際に「このまま次の入居者に譲り渡せたら」と考える事業者は珍しくない。飲食店を多数展開する企業は入居できる物件情報をいち早く掴もうとコストをかけてきた。退去希望者と入居希望者双方にニーズはあったが、これまでは、両者がつながる手段がなかった。

「退去NAVIの普及で、資源の無駄遣いを減らせる」

東京商工リサーチによると、2019年の飲食業の倒産件数は799件(前年比7.9%増)。1990年以降の30年間では、東日本大震災が発生した2011年の800件に次いで2番目の多さだった。トレンドやブームの移り変わりが激しい飲食業界では、新規出店の1年で約3割が閉店し、5年で約8割が消えていくといわれている。

退去の際に内装を撤去しても、次に同じような業種の店が同じような内装を準備することも少なくない。地球の環境問題が声高に叫ばれる昨今、まだまだ使える内装や造作(設備)を引き継ぐことには「大きな意味がある」という。内装工事の回数を減らすことで建物の劣化を防ぐことにもつながる。

きっかけは「撤退費用が払えない」相談

退去NAVIが生まれたきっかけは、退去を希望する店舗からの相談だった。

アクトプロでは企業のコスト適正化事業を展開する中で、ある飲食店の経営者の男性から「この店舗は撤退を考えているけど、入ってくれる会社はないでしょうか」と相談を受けた。

相談した男性の店舗は賃料55万円(38.2坪)の定期建物賃貸借契約で、7年契約のうち4年が経過したところだった。

期間内解約に係る違約金は「契約満了日までの賃料総額を支払う」。

36ヵ月×55万円=1980万円
別途、原状回復費用 382万円/10万(1坪)
撤退費用 合計2362万円

毎月の赤字額が賃料より高くなる月もあったため、経営の継続が困難だった。男性は撤退を考えていたが、2000万円以上の撤退費用が払えず身動き取れない状況だった。

店舗周辺に出店を検討していた飲食チェーン店を見つけ、居抜きで入居してもらうことで男性は退去することができた。

店舗の退去を決意する理由は業績不振が多い。特に個人や数店舗を経営する中小企業にとって、違約金や原状回復の負担は決して小さくない。

現在の商習慣では、出退店のコストが高くなっている。

「退去に困っている店舗の手助けをすることは、潤滑な経済活動の呼び水になるのではと考えた」と新谷は振り返る。

アクトプロでは2016年秋には専門部署を立ち上げ、居抜き物件の仲介を始めた。

出店希望企業を集める「雌伏の時期」

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当初は足を使って一件ごとにマッチングしてきたが、一昨年3月にはプラットフォームを作る構想が動き出した。昨年5月には退去NAVIをオープンした。

しかし、退去希望者にとってはすぐに次の入居者が決まらなければ、解約通知を出せないまま余計な賃料が発生してしまう。

「まずは、退去希望者がすぐに新しい入居先と出会える環境を整備しなくては」

新谷の大号令の下、部署をあげて入居希望の登録企業を集めることに注力した。退去NAVIの登録企業は現在では飲食チェーン店を展開する大手企業など600社を超えた。

サイト自体の使いやすさや見やすさにもこだわり、改良を重ねた。

新型コロナウイルス経済打撃の対抗策へ

地道に登録企業を増やしてきたが、今回急ピッチで告知に踏み切ったのは新型コロナウイルスの感染拡大がきっかけだ。

全国的にイベント中止が相次ぎ、外出自粛ムードは加速し続けている。飲食店への打撃は大きく、特に個人店にとっては死活問題になっている。

また、訪日外国人観光客も大きく減少している。

アクトプロが全国に設置している自動外貨両替機「SMART EXCHANGE」のうち2019年の1月から現在まで稼働している23都道府県234台の利用状況を調査したところ、2月後半(15〜29日)で実際に両替された額は今年2月後半の両替予想額の48.61%だった。

外国人観光客がもっとも増える4月を目前にしても客足回復の兆しはなく、インバウンド需要に支えられていた飲食店や旅館は閉店の危機に瀕しているところも少なくない。

「今こそ退去NAVIが必要とされる時では」

退去NAVIの一般公開を決めた新谷は「退去は店舗にとって大きな決断。費用を抑えるだけでなく、退去が次の事業や再起につながる英断となれば」と話す。

コロナウイルスによる経済打撃の影響で退去相談の殺到や、出店希望企業の”様子見”も予想されるが、新谷は「登録してよかった、そう思っていただけるよう退去希望者のニーズに全力で対応していく」と力を込めた。

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