全国で新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が延長される見通しだ。各地の自治体でも、飲食店などへの事業者に休業要請を延長する方針で調整が進んでいる。

そんな中、大阪市のバー「The Intersection」は通常営業を続けている。

店長の松山孝法さんは「自粛しなければ不謹慎、という空気に流されたくはない」と強調する。

「当店は要請に対して拒絶の意志を示したい」

自粛ムード・世間の空気に流されない 休業要請応じず営業継続する大阪市のバー「The Intersection」

4月以前の店内の様子(提供写真)


大阪府が休業要請を出したのは4月14日。その2日前にはニュースで「休業を要請する方針」と報じられた。

松山さんの胸中には疑問が湧いた。

「順序が逆じゃないのか?」

この時点では、支援金の給付などはまだ検討段階だった。どのような支援策が受けられるのかも不透明な状態で、要請だけを出すことに違和感を覚えた。

世間はすでに自粛ムードが蔓延していた。

「そのムード、あるいは空気を使って自粛を迫られているのでは」

自粛要請が出た14日、「note」で考えをまとめた記事を公開した。

本日より大阪府下にて、休業要請のお達しが出た。
もちろん、コロナウイルス拡大防止のためである。
当店が該当するバーという形態は休業要請のド対象であり、居酒屋などの他業種も酒類の提供は19時までで、開店時間は20時までとの要請である。
当店はその要請に対してハッキリと拒絶の意志をこの場に示したい。
(引用:https://note.com/dazaist69/n/nc9078e4c6074)

リスクはあるのは重々承知だった。

蔓延する無言の圧力

自粛ムード・世間の空気に流されない 休業要請応じず営業継続する大阪市のバー「The Intersection」
営業を続けることに決めたが、自粛を選択した人を否定する気は一切なかった。

個人で経営している自分と違って、従業員を何人も抱えていたら事情が変わるだろう。店を開けていれば赤字が膨らんでいくような状況なら、休業する判断は妥当だ。自分自身もコロナに感染したくないし、自分の店で感染者を出したくない。

しかし、自粛の空気に流されて、なんとなく同調するのは違うと感じた。

仮に生き死にが関わっても譲れない、拒否してしまうものを僕は矜恃、はたまた美意識と呼びます。他者を大切にし、慈しみから自制、自粛している人を攻撃、批判しているのではありません。
上記の目線がなく、ただ「まあベターやし、怖いし、控えよう(笑)」みたいな奴らが僕は堪らなく憎くて、憎くて仕方がない。
(引用:https://note.com/dazaist69/n/nc9078e4c6074)

流され続けた先には、マスクをしていない人、営業をしている店を見つけたら不謹慎だと糾弾する世界が待っている。

現に、営業している飲食店を通報する人が現れ、嫌がらせの張り紙がされているケースも報じられるようになった。

多くの共感、受け取りを諦めた支援金…

自粛ムード・世間の空気に流されない 休業要請応じず営業継続する大阪市のバー「The Intersection」

4月以前の店内の様子(提供写真)


noteへの反響は大きかった。もちろん、否定的な意見もきた。

しかしそれ以上に応援や同意のコメントが寄せられた。どこかで自分と同じような違和感を持っていた人もいたのだろう。

多くのメディアからも取材を求められ、記事を読んだ遠い地方の人からもメッセージを受けとった。店までわざわざ足を運んでくれた人もいた。リスクを負ってでも、記事を書いてよかったと感じた。

一方で、後悔がなかったわけではない。

営業を続けると表明した直後、大阪府の吉村洋文知事が休業要請に応じた個人事業主に50万円、中小企業に100万円を支給する考えを示した。

今からでも店を閉めてなに食わぬ顔で支援金を受け取った方が経済的には得をする。松山さんは「もらっとけばよかったかなという考えは何度も浮かんだが、撤回する気にはなれなかった」と振り返る。

自分の考え貫き営業続ける

自粛ムード・世間の空気に流されない 休業要請応じず営業継続する大阪市のバー「The Intersection」

松山孝法さん(提供写真)


自分1人が営業を続けても、何かが変わるわけではない。

しかし、これから先「ここで自分の考えを貫いた、流されなかったという事実を持っていたい」という。

自分の頭で考え、悩み、情報を取捨選択し、論理的に倫理的に間違っていても貫いてしまう変えることが出来ない何かを持った人だけを、僕は今、人間と呼びたいのです。
(引用:https://note.com/dazaist69/n/nc9078e4c6074)

「The Intersection」には今日も馴染みの客がふらりと訪れる。営業継続か自粛か、空気に流されるか自分を貫くか、悩み抜いたがいつもの顔ぶれで何気ない話をしている瞬間は松山さんにとって「営業を続けたから守れた日常」だ。

すべての飲食店が直面した苦難

4月。多くの飲食店が、判断を問われました。

松山さんのように営業を続ける飲食店も、それぞれが事情を抱えていました。店を閉めていては、売り上げは0になってしまう。従業員の人件費、賃料を払うために営業を続けるしかなかった店もあります。

しかし、店を開け続けても外出自粛の影響で客足自体が大きく減少しています。休業した店も営業を継続した店も、全国各地で多くの店が経営難に陥っているのが現状です。

コロナの影響は当分は続くとみられています。終息まで耐え忍ぶだけが選択肢ではありません。店を閉めて再起に向けて資金を貯めることも一つの対抗手段です。

テナントから撤退したい方と居抜き物件に出店したい方をマッチングする物件取引プラットフォームサービス「退去NAVI」では、撤退費用を最大限抑えることで多くの飲食店経営者がピンチを乗り切る一助になることを目標としています。

取材協力
The Intersection
大阪府大阪市西淀川区野里1-6-11-101
公式Twitter:https://twitter.com/intersectionOSA