ここ数年でイベント会場や空きスペースでキッチンカーを多く見かけるようになりました。その中でも変わったキッチンカーを目にすることもあります。
今回は路線バスを利用した「バストラン」をご紹介します。「バストラン」はバスとレストランを合わせた造語です。バスの車体や座席をうまく活用した、珍しい飲食店になっています。
今回はバストラン制作者の石田さんから、バストラン製作に至るまでの過程や製作のポイントについて話を伺いました。
石田孝太郎さん
キッチンカー、キャンピングカービルダー
実家の家業で飲食店で働き、物流関係や築地の鮪屋などいろいろな職業に携わる。
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目次
レストランそのものをキッチンカーにしたい!「動くレストラン」がコンセプト
ーなぜバストランを作ろうと思ったのでしょうか?
店舗のレストランのように、制限のないサービスをキッチンカーで提供したいと日頃から思っていました。
元々、キッチンカーを作る仕事をしているのですが、これまでのキッチンカーは使用する水の量やゴミを捨てる場所など、ある程度の制限があり、調理場も狭いため、どうしても設備や資材、材料を置く場所が限られます。
制限があると、思い通りのメニューやサービスを提供できませんし、普通はそこまでやろうという発想がなかなかありません。
バストラン以外にも、バスを使ったキッチンカーは何台か存在しているのですが、移動せずにスペースに止めたまま営業しています。ショッピングモールや商業施設の駐車場の一角をリノベーションして定常設置で営業したり、7〜8割調理したものをキッチンカーで簡単に調理・提供したりしています。
今回は制限をなくし、レストランそのものがキッチンカーになる「動くレストラン」という新しいコンセプトで、より幅広いメニューや高品質なサービスを提供するため、バストランの制作に至りました。
バスを選んだ理由はお客様に食事を楽しんでもらいたいため
ー通常、キッチンカーというと小型のトラックですが、なぜバスを選んだのでしょうか?
一般的に見られる、配送で使っているようなトラックは床が高いため、どうしてもお客様と接するときに上下差ができてしまいます。さらに、お客様からキッチンカー内部の様子が見られません。
通常のキッチンカーでも「接客時の上下差を何とかできないか?」と感じていて、イベントのときに「お客さんと少しでも目線を近くしたい」「料理をしているところをお客さんに見せたい」と思っていました。床が低く、ドアに大きなガラス窓のあるバスなら、お客様と近い目線で接客ができ、調理の様子も見てもらえます。
例えば、鉄板焼きはお客様の目の前で調理して提供します。目の前で調理すると、調理中の様子や揚げ物などの音、料理の匂いなども楽しめます。
バスは自分の希望に全て当てはまっているため、バスを使うことにしました。
バスの元の持ち主に熱烈交渉
ー今回使用しているのは路線バスですが、どこから入手したのでしょうか?
今回使用したバスは、大阪を拠点とする近鉄バスです。直接、近鉄バスから購入したのではなく「ヤフオク!」でオークションに出品されていたものを購入しました。
バスの以前の持ち主は関東に住んでおり、映画やドラマの撮影などに使用される車両を貸し出していました。しかし、近鉄バスは大阪のため、関東の撮影には適さず、使い道がなくなったそうです。
持ち主が廃車に出す前に「ヤフオク!」に出品されて、出品1時間後に自分が見つけました。翌日には元の持ち主のところに出向き、購入に至りました。
バスを購入する際、熱意を込めて「この子の第二の人生を僕に作らせてください」とプロポーズのような熱い思いで口説き落としました。元の持ち主も熱烈な口説き文句に「この子が違う形で生きるのなら是非お願いします」と了承したという熱いやりとりがあります。
このように、このバスは元の持ち主との出会いや交渉を経て、キッチンカーとして新たな人生のスタートを切りました。
バストランは最大限の設備を設置し、法律をクリア
ーバストランを実現させるにあたって苦労したところはどこでしょうか?保健所や陸運局などに事前の相談・手続きをするのが大変そうです。
バストランを運営するための手続きよりも、制作の方が大変でした。保健所のルールや自動車製造の法律、消防法・食品衛生法・自動車法など、さまざまな法律や規制を順守しなければなりません。
2021年6月にはHACCP(ハサップ)導入による法律改正があり、現在は猶予期間中で部分的に法律の順守が求められているだけですが、今後はさらに厳格化されます。
Hazard(危害)Analysis(分析)Critical(重要)Control(管理・制御)Point(点)の頭文字をとった言葉で、国際的に認められている衛生管理の手法です。
食品等事業者が危害要因を把握し、原材料の入荷から製品の出荷までの全工程の中で、それらの危害要因を除去、または低減させるために特に重要な工程を管理し、食品の安全を確保します。
グレーゾーン間際で許可を取ると、HACCPが厳格化された後や法律が変わった際に法律外になる可能性があるため、ギリギリの線を避けて最大限の設備を設置しました。
最大限の設備を設置することで料理の品目制限がなくなり、思ったとおりのメニューが提供できます。
他にも食品衛生法・自動車法・消防法の3つを、全てかいくぐるかのように守らなければいけないのが大変でした。
コンロ周りの壁は、耐火ボードやステンレスを使って燃えづらくしたり、レンジフードを取り付けたりします。さらに、建築法では燃えづらい素材であることの証明が必要なため、証明書などがないものは検査機構にサンプル材を持って行き、検査してもらわなければいけません。
また、掃除をしやすい壁や床にする必要もありました。冷蔵庫も温度計がついていないと許可が下りないので、今回は業務用を設置しています。
法律が変わった後のことを考慮し、長く使える設備にしたいことから、路線バスでできる最大限レベルの許可を取りに行きました。
バストランの制作ポイントは店舗飲食店と同じ基準で制作
ーバストランの制作ポイントを教えてください
制作のポイントは2つあります。
1つ目は、キッチンカーのルールに基づいて保健所の検査を受けるにあたって、基準を確実に上回る検査結果を目指しました。
さまざまな調理に対応できるよう、検査基準は固定店舗と同じにしています。
通常のキッチンカーでは運転席と調理スペース、客室を分けています。バストランの場合は、キッチンカーとして申請していますが、オープンキッチンを採用しました。
オープンキッチンにはスイングドアの設置が必要になるため、食品衛生法の規定に従い適切な仕切りも設け、利用者に安心してもらえるよう、基本設備をしっかりと備えています。
2つ目は、使い捨て容器ではなく、本物の食器が使えるようにしたことです。バストランは400Lと十分な水の量を積み、固定店舗と同じ検査基準なので本物の食器が使えます。
通常のキッチンカーでは水の確保量が限られているため、使い捨て容器を使う必要がありますが、使い捨て容器はテイクアウトの扱いだと個人的には思っています。キッチンカーのレストランをやるからには、食器は本物を使うことにしました。
使い捨て容器より本物の食器で食事をしたほうが、雰囲気がより一層豪華になり、楽しさも増します。酒類も提供するので、ビールをジョッキで飲めるのは大きなポイントです。やはり、ビールはジョッキで飲みたいですよね。
もちろん実際に営業してみて、提供数や皿数が増えた際に、使い捨て容器を使う必要が出てくる可能性があるのは覚悟しています。まずは、固定店舗と同じ基準で検査を受けていれば本物のお皿が使えるので、キッチンカーの基準値をはるかに超えた基準で制作しています。
キッチンカーではありますが、設備や内装、備品、料理は店舗の飲食店と変わりません。これらの部分で他のキッチンカーとはかなり違いますし、バストランのポイントだと思います。
バストランの活用で地域の飲食店も盛り上げたい
ーこれからバストランをどのように利用していくのでしょうか?
自分がバストランを運転して出向いてその場で調理する以外に、固定店舗の人が出張で居酒屋や中華料理店ができるように、バストランをレンタルしてもらいたいと思います。
飲食店は待ちの仕事なので、お客様に来てもらいますが、バストランはいろいろな場所へ移動してお客様を迎えに行く方式です。これは捉え方を変えたら、既得権の侵害になりかねません。自分で営業する際は、出向いた地域にある固定店舗とバストランで提供する料理がなるべくかぶらないよう配慮します。
「バストランは面白いですよ」という説明も必要ですが、それよりも飲食店の同業者に使ってもらい、地域を盛り上げて欲しいですね。
バストランを利用して「守りの仕事」から「攻めの仕事」に変えられると信じています。
工夫次第でこんな飲食店もできる
取材をして感じたのは、日頃から常に「どうしたらもっと良くなるか」「お客様はどう感じるか」など、お客様や飲食店全体を真剣に考えていることがうかがえました。
制作者の石田さんが日頃から思い描いていたことを形にした結果、「バストラン」ができあがりました。
石田さんのような目線で乗り物を再利用し、お客様に楽しんでもらうのも1つの案ではないでしょうか。
2023年6月11日「国吉百福市」
開催場所:出雲大社上総協会、国吉神社、天徳院境内
住所:千葉県いすみ市苅谷630
https://isumirail.co.jp/blog/archives/4268