事業用物件を借りる場合、保証金は欠かせません。しかし、保証金とはどのようなものなのか、敷金と礼金との違いを理解していないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、以下のポイントを解説します。
事業用物件を借りる際の保証金に関する情報を解説するので、オフィスや店舗などで事業を始めたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
保証金は借主が貸主に対する債務保証です
保証金は物件を借りる際に、借主から貸主に支払う初期費用の1つです。関西圏の文化で敷金と同じ意味合いで使われます。
事業用物件では、敷金ではなく保証金の名目になっていることもあります。関西圏では礼金の文化がなかったため、お礼の意味も含まれているようです。
そのため、保証金の目安は業種によって、かなりばらつきがありますが、敷金より高い設定となっています。
保証金は、借主が貸主に保証としてお金を預けているだけなので、消費税はかかりません。解約時に償却を除いた分が戻ってきます。ただし、債務があった場合は債務分が差し引かれます。
債務とは、解約時まで滞納していた賃料や、設備・壁などを破損したり激しく汚したりした場合のクリーニング代などのことです。
保証金-償却=解約時に戻ってくる金額
(債務がある場合)
保証金-償却-責務=解約時に戻ってくる金額
保証金は債務があってもなくても償却分は引かれてしまいます。償却とは、いったいどのようなものなのでしょうか?
償却は、解約後に返金されないお金です
賃貸借契約書の中には保証金償却という項目を目にすることがあります。償却は、解約時に返金されないお金で、表記や返金時期については、店舗物件によって違ってきます。
保証金償却や敷金償却は、賃貸借契約書の特約事項として記載されているので、必ず確認してください。
以下に償却の表記方法をご案内します。
保証金の◯%と記載されている場合
契約時に預けた保証金が一定の割合で減っていきます。
保証金が100万円だとすると、
1年目 100万円×10%=10万円
2年目 100万円×10%=10万円
3年目 100万円×10%=10万円
このように毎年10万円ずつ減っていくため3年で30万円の償却となり、返却される保証金は「100万円-30万円=70万円」です。
解約時償却◯カ月分と記載がある場合
解約時に保証金から、賃料◯カ月分が引かれます。償却される月数は、物件によって異なります。
100万円から20万円が引かれるため、戻ってくる保証金は80万円です。
保証金の◯%を差し引き返還と記載されている場合
解約時に保証金から◯%引かれます。こちらのパーセンテージも物件により異なりますので、契約書などで確認しておくと安心です。
100万円から10万円引かれます。
上記のように、保証金から償却分と債務分を差し引いた金額で計算できます。続いて、敷金と礼金の区別について説明します。
敷金・礼金の特徴や注意点を解説します
ここでは敷金と礼金について解説します。何となく分かっているつもりでいると、トラブルの原因となる場合があるので、しっかりと理解することが大切です。
敷金は保証金と全く同じではないので注意!
敷金は、家賃などの債務の担保として借主から貸主に預けるお金です。そのため、退去するときに戻ってきます。
借主の責任で建物に偶然、または意図的な損害を与えた場合の保護や、未払い家賃の補填に適用されます。したがって、壁や床を破損・著しく汚す、家賃を滞納するなど、契約上の義務に違反した場合、敷金は返還されません。
借主は賃貸借契約を結ぶ際に、契約内容を理解し、借主としての義務や責任を把握することが重要です。
保証金と同じ意味で使われることが多いですが、実際には様々な違いがあります。敷金は住宅物件では消費税が発生しませんが、事業用では消費税が発生するのもポイントのひとつです。
敷金の目安としては賃料の1〜2カ月分で、契約とは切り離して考えられず賃料の増減に連動します。
賃貸借契約書には、具体的な金額が記載されている場合と、「賃料の何カ月分」と記載される場合があります。
ここで注意しなければいけないのは、「敷金が賃料の何カ月分」と記載される場合です。
賃料が値上がりすると敷金も値上がりするため、更新する場合は賃料が上がった分の差額を支払わなければいけないことがあります。これは、敷金が賃料債務の担保であると考えられるためです。
賃料が月12万円で、敷金が家賃2カ月分とすると、
賃料12万円×2カ月分=敷金24万円(a)
賃料が15万円に値上がりすると、
賃料15万円×2カ月分=敷金30万円(b)
30万円(b)-24万円(a)=差額分6万円
このように、更新時に差額分の6万円を支払うケースがあります。
賃料に比例して敷金も上がるため、出費は大きくなります。そのうえ、敷金は契約更新時に一括で支払わなければいけません。
そのため、更新の際には思っていた以上の大きな出費になることがあります。
さらに、敷金に特約が記載されている場合、書かれている費用を借主が支払わなければなりません。賃貸借契約書や特約の内容を理解し、分からないことがあれば確認するようにしましょう。
礼金は解約時に返金されません
礼金は、物件契約時に貸主へ支払い、解約時に返金されません。なぜなら、礼金は貸主に対するお礼の意味で支払われるためです。
相場は賃料の1〜2カ月分となり、築年数が新しい物件、人気が高いエリアの物件は敷金が高い傾向にあります。
礼金がない物件も増えており、ついつい礼金がない物件を選んでしまいそうになりますが、思わぬ落とし穴があるかもしれません。
例えば、敷金や保証金、違約金など他の金額が高かったり、築年数が古かったり、交通の便が悪かったりなどで人気がない場合があります。
このように「礼金がない物件だから」という条件だけで決めてしまうと、後悔することになるでしょう。そうならないために、賃料や他の条件とのバランスを考慮することが大切です。
敷金と礼金の特徴や注意点については理解できたと思います。気になる相場も敷金・礼金ともに1〜2カ月分と比較的少ない費用です。
それでは、保証金の相場はいくらなのでしょうか。次の章では、保証金の相場について解説します。
保証金の相場は業種によって差が出ます
保証金の相場は業種によって、かなりばらつきがあります。
オフィスでは賃料の1〜3カ月分が目安となり、店舗では3〜10カ月分が目安です。特に飲食店では保証金が高く、おおよそ賃料の10カ月分で、高いものでは24カ月というのもあります。
なぜなら、飲食店の物件は構造が複雑かつ特殊であることが多く、さらに、油汚れやカビの汚れ、顧客の出入りによる破損などのリスクが高いためです。また、飲食店は売り上げに波があり、賃料を払えなくなったり廃業したりする可能性があるのも理由の1つになっています。
保証金は上記のように他の費用より高めの設定になっているため、出費も大きくなります。さらに、貸主が替わった場合には、さらなる出費が発生するかもしれません。
保証金は貸主が替わった場合は要注意!
破産や民事再生、売却などで新しい貸主に変わった場合、敷金は契約と連動しているため、引き継がれます。
しかし、保証金が前の貸主から新しい貸主に引渡されない場合は、保証金の返還は新賃貸人に引き継がれません。
なぜなら、賃貸借契約とは別に契約を結んでいる「金銭消費貸借契約」となるためです。
引き継がれない場合は、新たに敷金の預託を求められます。
ただし、保証金の額が賃料の6カ月以内の場合、敷金と同じ扱いになると解されることが多いため、戻ってくる可能性は高いでしょう。
保証金を交渉のタイミングは入居申し込みをするときです
保証金は費用の中でも高額な部類に入り、入居時には出費がかさみます。入居したい事業者のなかには「なんとか減額できないか」と悩む方も。
実は、必要費用と同様に減額交渉できるチャンスがあります。それは、入居申し込みをするときです。希望条件を伝える際に、保証金の減額交渉をします。
ただ、減額交渉ができるかどうかは該当物件の状況次第となり、必ず減額できると言うことではありません。競争率の高い人気物件では、交渉を受付けてもらえないことが多いようです。
保証金で不安があるなら、交渉もできるプロに相談するのがおすすめです
保証金と敷金、礼金の特徴をもう一度確認してみましょう。
【保証金】
特徴 | 物件の修理や未払いの賃金に使われる |
目安の金額 | オフィス:賃料の1〜3カ月分 店舗:3〜10カ月分 |
解約時の返金 | 償却と債務(発生した場合)を差し引いた分が返金される |
【敷金】
特徴 | 物件の修理や未払いの賃金に使われる |
目安の金額 | 賃料の1〜2カ月分 |
解約時の返金 | 基本は全額返金されるが、債務が発生した場合は債務分を差し引いて返金される |
【礼金】
特徴 | 貸主へのお礼として支払われる |
目安の金額 | 賃料の1〜2カ月分 |
解約時の返金 | 返金はない |
入居時の出費は上記のものだけではありません。その他に共益費や管理費、火災保険など、いろいろな支払いが発生します。各費用の内容を理解していないと、契約後にトラブルが起こる恐れがあります。
出店や移転の準備は、通常の業務に加えて、限られた時間の中でやることが多いです。契約時の交渉まで手が回らない場合や不安な場合は、専門知識のある賃貸借のプロに任せれば、しっかりサポートしてもらえるうえに、時間に余裕が生まれます。
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