5月6日で解除される予定だった新型コロナウイルスによる緊急事態宣言。政府は4日、5月末日までの緊急事態宣言延長を決定した。
これに伴い、各都道府県知事による緊急事態措置、及び事業者への営業自粛要請も延長される。

しわ寄せは不動産オーナーへ

外出自粛による影響が最も大きいとされる業種が飲食業だ。全国で150万件に迫る飲食店は、極初期から外出自粛要請の中で、営業や利用の自粛が要請された。
しかし飲食店は小規模事業者の参入障壁の低さから企業体力の不安定な経営を続けていた企業も多い。

東京商工リサーチによるレポート*によれば、当初の緊急事態宣言解除以前の5月1日時点で、新型コロナウイルスの影響を受けた企業倒産(負債総額1000万円以上のみ)は全国で累計114件。
うち16件が飲食業とみられ、2月ごろからインバウンド需要の落ち込みを受けた宿泊業に次いで業種別計上で2位となっている。
比較的事業規模の大きい倒産だけを見ても外出自粛要請以後、飲食業界は深刻な影響を受けていると見られている。

そんな中、注目されがちな飲食業の影で、不動産オーナーの負担が膨らんでいる。

相次ぐ減賃要請

『賃料減額』。平時であれば滅多に聞かないこの言葉が、飲食店経営者の間で一般的になっている。
突発的な事情で売り上げが大きく落ち込んだ際、飲食店にとって最も大きな負担になるのが店舗の賃料だ。
仕入れなどの変動費はある程度調整が効き、人件費など固定費の大半は簡単に削減できないが、賃料であれば貸主との合意があればいつでも変更することができる。

普段は都内で2つの会社経営をしており、都内に複数の事業用不動産を持つある不動産投資家(以下、Aさん)は語る。
「緊急事態宣言後、飲食店中心に大幅な賃料減額の要請が急増した。仮に同意した場合、キャッシュフローが大幅な赤字となるような無理な減額要請も多い」

コンビニ最大手のセブンイレブンジャパンは3月、一括借り上げ・サブリーシングを行っている地主に対し、一斉に『新型コロナウイルスの影響に伴う賃料減額のお願い』として、地代減額の要請を行った。
しかし、この要請はFC加盟店には知らされておらず、リース料金の減額なども特に行われていないという。*

不動産オーナーの語る、無理な減額要請の実情とは

Aさんの元にも、三月中頃より借主からの減額要請が相次いでいるという。
「中には書面のやり取りのみで交渉を行い、合意もしていないのに振込額を勝手に変えるようなケースもあります。また客足含め通常通りの営業が見込めるような業種の店舗からも減額要請は来ていますね」
「賃貸契約は長丁場の信頼関係を前提に締結するもの。窮状に立たされた事業者に協力したい気持ちはあるが、現実問題として対応できる範囲には限界があります。
助け合いを求めるのであれば、全員が大変なのを理解してほしい」(Aさん)

相次ぐ減額要請の背景とは

規模の大小に関わらず、強気の減額要請には後ろ盾があった。
一つは3月末日、国土交通省より不動産関連団体へ通達された『新型コロナウイルス感染症に係る対応について(依頼)』という文書だ。
文書内では、新型コロナウイルスの影響による経済的な影響に触れつつ、こうした背景の中で賃料の支払いが
困難となる事業者の貸主に対し賃料の支払いの猶予に応じるなど、『柔軟な対応』を求めている。
発表当初、不動産業界の中ではその曖昧な内容、対象となる事業者や行政としての支援策を明示しない姿勢が批判を呼んだ。
「この内容なら出さない方がましじゃないの、と思った。期間も対象も書いてないような文章を持って無理な交渉をされても困る。」(Aさん)

そして一つは4月17日、国土交通省より通達された『ビル賃貸事業者の皆様へ ~新型コロナウイルス感染症に係る支援策~』という文章だ。
これは急増する新型コロナウイルスの影響による減額要請を受けて、決定した貸主側への支援策等を列挙したものだ。
文書内では、新型コロナウイルスの影響による減額要請に応じた事業者への支援策として、

①2021年度の固定資産税・都市計画税減免
②税・社会保険料の猶予
③減賃などに応じた分の損金計上

などを挙げている。国交省として、賃料の直接補填などの直接的な手段を避けつつもテナントの減額要請を通りやすくするための支援をする姿勢だが、Aさんは語る。
「ただでさえ複雑な各種税率の計算の中に、来年以降の、しかも未確定の優遇措置が入ったところで、
実際にいくらまでなら減賃に耐えられるかの計算すらおぼつかない。不動産投資を生業にしている以上数字さえ出してくれれば
社会奉仕だと思って可能な限りの減賃はするつもりだが、ローンが払えなくなればそれどころではなくなる。」

前述のセブンイレブンジャパンによる減額要請も、このような国交省の姿勢あってこその強気なものだという。
「色々やっていますが、結局どこかから金が沸かない以上は消費の落ち込みをどこでしわ寄せするかの違いにしかならない。」
結果として、貸主と借主の溝は深まるばかりだという。

Aさんはそれでも、妥当なものであれば要請に応じるつもりだ。
「いついつまでこの額で借ります、という契約は大切だが、出来なくなりました、というのは別に珍しい話でもダメな話でもない。
ローンを支払い物件を貸す貸主と、賃料を支払い品物を売る借主が、お互いが倒れないようなラインを探ることは昔からやってきた。」
「全員が大変な状況の中で、スムーズに助け合いが進むような制度作り、行動が普及してほしい」
と締めくくった。